帰農塾 参加者 レポート 
KINOUJUKU SANKASYA REPORT
5月23日〜25日 里山帰農塾 春  
 
2008.5.25 更新日 2008.6.16 2008.7.7


私の農業体験
 K.H

 お天気に恵まれた、三日間でした。萌え立つ緑の山々、その中での田植作業は、最高でした。オタマジャクシもいたし、ヒルもいたし、ヨモギもフキも、ここには私の原風景が、ゼーンブ揃っているではありませんか。今回は、最初の一歩でした。大地の食材を、毎週受取りながら、いつかは行くぞと思いつつ、日々追われ、そんな自分に言い訳し、なさけない有様の私でした。行くぞ、行くぞと掛け声ばかりの私から、やっと一歩前進。ほんの一ミリの成長みたいです。後三回、そのプロセスの中で、方向性を、流れを見つけたいと思っています。
 もうすぐ、三回目の成人式です。私のシンフォニー、第三楽章です。季節で云えば、秋になります。少しもの淋しい、哀しい、子離れを済ませた心の季節です。やがて迎え来る冬に寄せて、どんな秋にするか、なるのか、ここ一番の正念場です。思えば、黄や紅に色取られた、人生の深さを知る、質を生きる、私の人生の秋にしたいと思います。その手掛かりにしたい鴨川里山帰農塾なのですが…。



里山帰農塾に参加して
 H.S

 私は今回初めて帰農塾に参加しました。お米が大好きで田植えをしてみたいと思ったのが一番大きな動機です。一人での参加ということで不安がありましたが、実際来てみると私と同じように一人で参加している人も多くみなさんとても気さくな方たちばかりで、三日間楽しい時を過ごすことができました。
 一番楽しみにしていた田植えでは、天気にも恵まれ、楽しく作業ができました。最初から最後までなかなかうまく苗を植えることができず、もどかしい面もありましたが、貴重な体験でした。田んぼの泥の中は気持ちがよく、体が喜んでいる感じがしてうれしくなりました。普段アスファルトやコンクリートに囲まれて暮らしていますが、体は無意識にストレスを感じているのかもしれません。やはり大地から離れた生活は、不自然で無理があるのかなぁと思いました。



「農的暮らしへの想い」
 M.S
 居心地の良い空間を初対面の人達と共有し素直に楽しんでいる自分に、正直嬉しい発見と驚きがありました。
 それはもちろん、講師の方々やスタッフの方々の御尽力の賜物であると同時に、それぞれが「何か」を求めて帰農塾に参加していることが共通項となり、不思議な親近感というか肩肘張らない雰囲気がそうさせてくれたように思います。
 二年前に仕事を辞める迄の間、時間に追われてバタバタと過ごし、気がつけば、日々の暮らしそのものをただおざなりに消化するだけで精一杯、口癖はいつも『とりあえず』でした。
 そんな態度は、食生活に歴然と表れました。健康で安全の為に購入していたはずの「泥のついたお野菜」が「面倒臭くて、厄介なもの」としか映らなくなっていました。「いただきます」も言わずに慢然とテレビを見ながらの食事がいつの間にか当たり前のような毎日。
 食べる事は命を頂いて生きる事だという実感がまるで湧かない生活に虚しさを感じ、毎日をもっと丁寧に暮らしたいという思いが強くなり、最近の「田舎暮らしブーム」にも後押しされるように模索を始めた時に鴨川自然王国との出会いとなりました。
 様々な体験や講義等を通じて、『農的な暮らし』が自分の本来求めていた「毎日を丁寧に生きる」事でもあると知り、気持ちを新たに、きちんとした食材を選び丁寧に料理し、ありがたく美味しく頂く生活を基に、そこから見えてくる素朴な疑問や発見を見過ごさないように暮らしていきたいと思います。
 そして、それが鴨川自然王国の活動等に何らかの形でつながっていけばと考えています。



半農半Xの始まり
 A.A

 これから半農半カフェ&ガラス工房をやって行くと決めたのは、今年の1月に暇潰しに立ち寄った本屋で塩見直樹さんの「半農半X・実践編」に出会ったからなのですが、そこには私のこれまでやりたかった生き方が書かれていました。その時に一緒に購入した「自給自足」という雑誌の物件情報の勝山の中古家付き約300坪の土地(みごとな梅の木)に惚れて、あれよあれよと言う間に親のススメと援助のお陰で、その場所でカフェ&ガラス工房をする事に…。
 田舎暮らし&畑をするにあたって、無の状態でしたので、調度近くに鴨川自然王国があるのだから勉強させてもらおうと、思い切って参加(春・秋・冬)を決めました。来て本当に良かったです。考え方に似ている人の集まりというのもあり、肩の力も抜けて楽しい時間を送れました。ありがとうございます。
 やっぱり人は土の上で太陽の光をあび、雨に打たれて生きるのが自然な生き方なのだと直感しました。窓から朝日が差し込むと自然と目が覚め気持ちの良い一日を迎えられ、おいしい空気吸って、おいしい食にありつけて、体動かして、仲間と笑って、これこそ本当の「豊かさ」じゃないでしょうか!!
 「楽しくなきゃ人生じゃない」本当にそう思います。
 自分の直感を信じて、やりたかった事を形にして行く時期が来ました。今まで経験したいろんな事、嫌な事も全て、ここ(この生き方)にたどり着く為の大切な通過点だと思えるようになりました。
 これからも宜しくお願いします。



初めての田植え
 M.Y

 腰をかがめて苗を植えている田植えの姿、原田泰治さんの絵でよく見るのどかな田園風景。自分で初めて田植えをした、61才での初挑戦である。仲間達が一列に並び、両端の人が立てた棒から印のついたロープが一本張られる。
 そこに印に沿って今回は苗を5本ずつ植えていく。親指、人さし指、中指の3本で土につくまで持ち、土についたら親指を離し、2本の指で土にさす。終わると少し前にロープが張られ、同じ作業の繰り返し、なんとか植えられるようになったが、どっこい田植え足袋をはいた足が抜けない。かかとからつま先、ゆっくり足を抜き、つま先から入れる。要領を覚え、早く出来るようになったら田植えは終わっていた。充実感を味ったが、後でゆっくりと苗の状態は見て下さったのだろう。
 一日目に畑に苗を植え、二日目に田植え、土にふれる生活は、疲れを覚えるがほっとする充実感がある。
 介護という仕事に携りながら、土にふれる、草取りをすることは癒しにつながる事を知ってはいたが、自分自身の体がそう感じた。今後は地域での介護に何か役立てたいと思っている。
 三日間の体験を通して一番印象に残ったのは「里山・棚田見学」棚田倶楽部から大山千枚田の風景を見ながら、千枚田オーナー制度の話や、木、家造りの話をされる石田さんの笑顔に、苦労は多いけれど夢をあきらめない希望が見えた。
 毎日美味しい食事を提供してくださった石井さん。笑顔で接して下さったスタッフの皆様有難うございました。
 この里山の体験をもう少しスケールを小さくして、将来を担う子供達に提供できるようになれば、春休み、夏休みを通して企画してくださればと…。



自然王国は…
 Cygnus.amawari

安房鴨川駅でワンボックスカーに乗り込みゆらゆら、途中ジムニーが横転している事故現場を横目に車は山道へと登っていった。30分後に到着したその場所は鴨川自然王国。
 里山帰農塾のメニューは、畑仕事、田植え、豆腐作りの自習の他、座学という講義があり、田舎すなわち里山に住むということの意義、里山から見えてくる日本あるいは世界のあり方等を学ぶことができた。日頃「土」との関わりがほとんど無い私にとって新鮮な体験であり、気づかないでいたことを発見する有意義な3日間だった。
 以下、簡潔にその要点を述べよう。
 都市型の生活形態は一部、裕福層を除いたら近い将来崩壊の危機にひんしていること。その解決策として最も有効な方法は、里山の再生充実と都市と里山のつながりを太くすることこそが重要な鍵であること。
 自給率の値にしてもそこには道の駅などの即販所は含まれていない、というように情報には発信者の意図が意識的あるいは無意識のうちに含まれている。発信する側は、正しく正確な情報を出すことに細心の注意を払うべきだし、受信者はその真偽を常に疑う必要があること。
 どのような職業に就いているのかにかかわらず「農」というものは生活の根本・基本であるということ。
 特に最後の点については、発想の転換が必要であり、今までの生活の中からは決して見出されることのないものだと考えている。
 いま少し王国の魔力(魔法?)について調べてみる(体験してみる)必要がありそうだ。こればっかりは、頭でいくら考えても答えはでそうにない。



王国に来て思ったこと
 M.H

 東京、杉並区在住でニットの企画と生産会社を経営しています。
スローライフ、スローフードに興味があり、たまには自然に触れたい思いで里山帰農塾に参加しました。
現在、農薬、食品添加物など食の安全性が疑われている中で王国では有機野菜を思う存分食べられ、緑に囲まれながら農作業をし、木の家に住み、これが本当の人間の生活なのではないでしょうか?
 私は夢は田舎に家を持ち、5匹の猫を車に乗せて庭で野菜作りと季節の花を植え、木の家で安心、安全な食生活を週何日か過ごすことです。
今までは夢は夢で具体的に考えることがなかったのですが、今後は、今自分に出来ることは何かを考え、一歩一歩前進して行きたいと思うようになりました。



二度目の自然王国
 H.K

 今回は事情があって、二日目からの参加となりました。到着すると、田植はすでに始まっており、大急ぎでしたくをすませ、何とか実習を受けることが出来ました。初めての体験でしたが、予想通りの泥まみれの満足のいくものでした。帰農塾での実習は、植え付けから収穫までの長い過程の一部だけを体験する類のものですが、なぜかそれでいて全体像がうかんできます。今年は一年を通じて参加させていただきますが、今年の終わりには、私のように経験の全くないものでも農作業とはいかなるものなのかと実感させてくれるものと期待しています。また、机上の学習では、いま農業をとりまくいろいろな問題について知ることができ、私自身の定年後のいなか暮らしを考えるに当ってとても参考になるものです。ただ、現時点では、環境問題、医療制度の問題、政治の問題などとは異なり、「日本の農業」についての問題意識が私自身そんなに強いわけではないので、こうしてレポート作りに悪戦苦闘しております。



これからどう生きるか
 A.K

 内臓手術とうつ病のために三十一年間勤務した役所を退職しましたが、定年まで5年程あり、次の仕事と生き方を模索中でした。
 そんな中、新聞の囲い記事に、加藤登紀子さんが鴨川自然王国と里山帰農塾について紹介している部分がありました。その中で印象にのこったのは、必ずしも将来、営農をめざす人だけでなく、何らかの生き方の参考としたい人も参加したらよい旨のコメントが載っていたことです。このコメントで参加をきめました。
 本日三日間の帰農塾が終り、今思っていることは、参加してよかったということです。生き方の選択が広がり楽になり、必ずしも、営農のみにこだわらずに、いわゆる田舎ぐらしはしてゆけるものであることを知りました。
 半農半Xという生き方は、私はまだよく理解はしていませんが、基本的には、何をしたいのか、どう生きたいのかが、はっきりしていれば、農的生活と共に、又は農的生活のもとに生活のし方は、多様に広がってゆくのだということでした。まだこの地方に定住して何か(私の場合、和竿づくり)をするという方針は、決定していませんが、生活のし方のヒントを与えてくれたように思います。
 まだまだ、様々な仕事体験(例えば、漁業)をして、今後の生活の場所と生活のし方を、さぐってゆこうと思います。
 最後になりましたが、この三日間、体調がとてもよくなりました。おいしい料理と、空気とスタッフの皆さんお心づかいに感謝いたします。



『初めての農業体験』
 T.K

 私がこの里山帰農塾に参加しようと思ったのは、日本の自給自足率の低さ、食べ物もエネルギーも輸入に頼っている現状に危機感を感じ、自給自足率を上げなければ、日本の将来はないのではないかと思い、せめて自分の食べる物くらいは自分で作れたらという思いがあり、さりとて、家庭菜園の経験も何もないし、まずは農業体験をしてみようと思ったからです。ただし、環境にも優しい有機農業をやっている所という条件付きで。
 初日に農園に着いた時、木々の匂いとか空気の美味しさとかに癒されていく感じがしました。
 苗植えも田植えも初めての経験で、とても楽しく、土をいじる事に抵抗もなく、虫も思った程、いやではなかったので、将来、何とか家庭菜園くらいならやれそうだと少しだけ自信がつきました。
 あと今回は座学では、『医学と食』(?)のお話しをとか、様々な興味深いお話しを聞き、良かったと思ってます。また機会があれば、参加させて頂きたいと思ってます。



里山帰農塾〜春〜を体験して
 T.K

 こうしてレポートを書いていても、ふと目をあげると窓の外は、まだ若くういういしい苗が風でゆれる田んぼと、広葉樹と針葉樹が入りまじった里山の緑。耳をすませば、犬の声と、風にサラサラとなる葉の音、鳥のさえずり、ニワトリの声。雨のあとの空気のにおい。ここでずっと雲でもながめていたいような、私の大好きな風景がここにあります。
 都会に生まれ育ったせいで、逆に自然へのあこがれがありました。どの香水の香りより土と草のにおいが好きでした。そして環境問題への興味。この小さな地球の限られた資源を、一部の国の一部の人達が有史以来のおそろしい勢いで使っている社会に対する漠然とした不安感。そんな中で、市民農園をかりて野菜を作りはじめた事によってとりたての旬の野菜を自分で料理して食べ、生ゴミを堆肥にして畑にもどすことを始めて、自然の大きな循環を少しだけ感じる事ができるようになりました。そして農に対する興味が強くなり、田植を一度やってみたくてここに来ました。
 田植や豆腐作り、里山の見学、そしてみなさんのお話、どれもとてもおもしろかったです。
 今までバラバラだった、森へのあこがれやエネルギー問題に対する不安感、農への興味は、私の中で「持続可能な農的生活」というキーワードでむすびつこうとしています。



『初めての農業体験』
 Y.H

 農家になりたい!!と思ったのは、深い考えや実現したい夢と言うより、一種の閃きの様な清々しい思いでした。単純に体を動かし感覚を磨けば、複雑に頭を動かし理屈を捏ねる様な今の生活から抜け出せると言う期待感と、本当に自分に出来るのか農業を好きになれるのかと言う不安や焦りみたいなものが在りました。
 里山帰農塾に参加したのは夢の実現と言うより、とにかく農業を体験したいと言う衝動と好奇心でした。すぐに痛感したのはその甘さと自分の考えのなさです。自分には知識も経験も無いし、とにかく一度体験してみないと何も始まらない気がしてました。だけど実際に体験し話を聞いていく内に、自分は何が聞きたくて何が知りたいのかすら考えが致らないのに気付きました。そして普段自分が過ごしている生活や土地の中にも、“農”を考え自然を体感していく場所は幾らでも在るんだと感じました。
 初めての農業を体験して一番感じたことは、有りのままの自分で良いのかなと言うことです。面倒なことは面倒臭いと思って、無理に農業を好きになろうとはせず、感じたまま自分を好きになっていけばと思います。
 やはり今でも理屈抜きに、農家にお百姓さんになりたいと強く思います。



帰農塾ACT3(環境を思う)
 A.N

 農と地球環境は切りはなせないものだと、最近特に実感する。つい十日程前。中国は広東省へ久しぶりに行ってきました。目的は海側の深セン市を中心とした工業地帯。まず驚いたのは若年労働者の多さ、それとダストをちりばめた様などんより紗のかかった空。
 前回の訪問中は十五年前でした。行程は今回たどったルートと、全くおなじであった。前回との第一印象の大きな違いは、家々の壁の色と空の色の違い。十五年前に初めて中国の地を踏んだ瞬間に目にした、赤やグリーンに塗られた壁の原色のあざやかさと澄みきった空の色は今でも目に焼き付いている。中国のあまりの変化に驚くばかり。今回はあの世界の製造工場と言われる深セン地区に限り、他の地域はす通りと言う事もあり、特にひどい所だけを見てしまったのかもしれない。この中国の工場地帯を見て再び考えさせられた事だが、とにかく物を作り過ぎている。この大量生産、大量消費のこの現状にブレーキを掛け、考えなおさねばと思う。それにはまず一人ひとりが日常生活の中で無駄な消費をなくす努力を、真剣にせねばと思う。やはり行き過ぎた経済は考えものですね。



帰農塾に参加して
 K.S

 今回、田植を体験したのですが、夜になって交流会の時に宮田さんに言われました。
「おけいはん、体が動いてなかった。
 体温が上がらないんちゃう?」
 王国に通うようになって1年半。帰農塾は3度めで、個人的に万歩計をつけて、動いているつもりでしたが、都会的な運動しかしてこなかったことを痛感しました。
 でも、3日間の規則正しい生活の結果、心地よい睡眠もあって、目のクマが消え、指のササクレもキレイになくなりました。
 私は5月末で転職します。6月から福祉を勉強します。王国で多くの人と触れ合い、考えた結果ですが、改めて甲斐さんの医食農想の一体化の必要性や、高野さんの自分の自給率の話を伺って、自分の方向性はまちがってなかったと改めて思いました。
 最後になりますが、スタッフさんの心遣いや石井さんの美味しい食事に感謝しています。明日からのくらしのエネルギーをたくさん得ました。
 本当にありがとうございました。



「里山帰農塾で得たもの、感じた事」
 K.A

 今回、里山帰農塾に参加させていただきまして、ありがとうございました。たくさんの物を得ることができましたし、とても楽しかったです。私は、食糧・エネルギーの自給率の低さや環境問題、貧困などについて、何か自分でそれらの問題を少しでも改善していきたいという思いから農業について知りたくてこの帰農塾に参加しました。今まで一度も農業などやった事がなかったので、今回田植えと畑作業を行えたことで、本当に少しですが農業がどういうものなのか知ることができました。もちろん農業のむずかしさや厳しさはまだわかっていません。今後の将来の具体的なヴィジョンも浮かんでいません。でも、今回かすかですが希望の光のようなものが見えた気がします。それは、いろいろな方のいろいろな話を聞き、いろんな生き方があるんだという事を実感できたからだと思います。会社だけが人生じゃないんだという事を実感できました。今回体験した事を大切にし、今後ももっと自分で考え、いろいろ行動して、自分の中で将来のヴィジョンをより明確にできるようにしたいです。仕事があるので今後の帰農塾に参加できるかわかりませんが、何らかの形で今後も鴨川自然王国の活動に参加していきたいと思っています。また、自然王国だけでなく、日本には他にも農業について取り組んでいる所があることがわかったので、いろいろな所も見てみたいです。三日間本当にありがとうございました。



帰農塾を終えて                      
Y.H

 「地に足がついていない」いつしか、そんな不安な感覚を持つようになっていた日々の生活の中で、直感的にこの帰農塾に目が留まった。
 ピーマンの苗を植えるときの鴨川の粘土質の硬い土、田んぼに入った時のぬるっとした感触、高台にある研修小屋に透る心地よい風、鶯の鳴き声、夜の静かな真っ暗闇、漂うオレンジの木の香り、外でみんなでテーブルを囲み新鮮な野菜を食べる。美味しくて毎回、御飯三杯以上おかわりしてしまった。畑からの帰り、3人で道に迷ってしまい、そこで出会った近所の親切なおじいちゃんの軽トラの後ろに乗せてもらった時のワクワク感。
 それらが、心と身体にすっと吹き込んできた。加藤登紀子さんが言った「頭で考えるより、まず身体を動かしてみて分かることもある」そんな言葉が、ぴったり合う3日間だった。
 今まで農業に関心があったものの、もっと厳しく難しく考えていたような気がする。たしかに農業だけで生計を立て、プロになるのは知識や経験や忍耐など必要なものが沢山あると思う。でも、きっと農業へはいろんな関わり方がある。資本主義、市場経済における産業の一分野として、効率性と生産性でしのぎを削る農業ではなく「農」を、もっと楽しくやってもいいんだと、気が楽になった。それは、家庭菜園をやっている今回の参加者の方や講師の木下さんの楽しくて仕方がない、そんな姿やお話を聞けたことも大きかった。「半農半エックス」いい考えだと思った。ちょっと待てよ、これは自分の実家じゃないかと気がついた。あまりにも当たり前過ぎて気づかなかったことだ。
 早速、時間を作り愛知県の実家に戻った。母と一緒にジャガイモ、茄子、たまねぎ、レタスを収穫。草取りの技は、この道60年の祖母にはかなわなかった。農業について今まで家族の間で特別に話さなかったのは、これがあまりにも生活に溶け込んでいたからなんだということに気が付かされた。採りたての新鮮な野菜を食べながら、当たり前になっていた贅沢を噛みしめた。
 あらためて農に触れ、何かを作り出していくとことが、あの不安な感覚を埋めてくれるものになるのではないか。消費が主の都会的な生活への虚しさだったのかもしれない。でも、それを極端に否定するのではなく、「両方楽しむ」、それでもいいのではないか。
今後の人生がますます楽しくなりそうだ。



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