田中正治
田中論文

「狂牛病」

■text:田中正治

■date:2004.3.11

1)日本でも発見された狂牛病は、世界を覆う戦争の暗雲の陰にかくれていますが、生活レベルでの関心は強く、牛肉買い控えは消極的ボイコットの様相を見せています。発見された狂牛病は、恐らく氷山の一角でしょう。なぜなら、日本の畜産業の飼料穀物は、恐らく95%以上は輸入であり、狂牛病の原因物質は世界貿易をとおして世界を循環してるからです。情報源の多くは「現代農業」1996年11月1日「食べ物クライシス」に拠りました。緊急の要請のためそこからの引用を多用していますが、視点は多少独自性を出してあります。

2)「狂牛病は牛のプリオン病の一つです。プリオン病は酵母からヒトまでが普通に持つ蛋白質です。」プリオン病は、このプリオンがなにかの原因で悪いプリオンに変身し、それが他のプリオンに感染して、神経系とリンパ系組織中に蓄積し、病原体となって脳を海綿状にしてしまいます。羊のスクレイピーとヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病が有名です。

3)「羊のスクレイピーは、18世紀の終わり頃から英国で知られるようになった病気です。この時代の英国は国をあげて羊を系統改造=改良し」商品としての羊の生産に取り組みました。その過程で少数の系統の中に遺伝家系病としてあったスクレイピーが交配を媒介して一挙に英全土に広がったのです。資本制的畜産業の開始がもたらした悲劇といえるでしょう。人間による動物の改良と交配が、静かに生きていた生命体をかれらの生活環境を破壊することによって、他の生命体の「病原体」にしてしまったのです。人間による自然環境の破壊が、AIDSやエボラ熱を「病原体」にしてしまったように。

4)では、なぜ羊だけの病気だったスクレイピーが、牛の海綿状脳症を起こしたのでしょうか。人間の味覚に合った高乳脂率の牛乳を牛に出させるためには蛋白質を12分に与えなければならないのです。英国は家畜に与える植物性蛋白が不足しているため、「動物の毛も肉も取った後の、いわゆるヒトが食べない部分、つまり神経や骨髄やな内臓肉を蛋白質として、再び動物に共食いさせるしか方法がないのです」「焼くこと、温度をかけることで化学物質や放射線物質以外はどんな毒も無害にすることが出来ますが、悪いプリオンのかたまりは熱に対して他の病原体よりも抵抗性があります。低い回数が少ない熱のかけ方では、悪いプリオンのかたまりをなくすことが出来なかったのです。こうして羊のスクレイピーの20種類ほどある悪いプリオンの内の一つが、何らかの形で変化し、同じ反芻獣である牛へ伝染し、狂牛病を引き起こしてしまいました」(以上P122−123「人間が広げた狂牛病」)

5)第3世界ネットワークで活躍しているマーティン・コー氏の「狂牛病・爆発的流行はあるのか?」(現代農業19996年11月1日)からの要点+僕の意見です。羊のスクレイピーという病気が、牛の海綿状脳症に転化し、更に人間のクロイツフェルト・ヤコブ病に伝播するのみならず、この病気はマウス、豚、猿、ヤギを含む他の動物にも伝播することが、公的機関の実験で証明されているとされています。こうした種の壁を超えた病原体感染は、遺伝子の水平移動が種の壁を越えて行われていることを示しています。

6)18世紀のイギリスの特殊性ではなく、1990年代の中葉にイギリスとヨーロッパを震撼させた狂牛病はなぜ起こったのでしょうか。「それは生産と利潤を最大にすることを目的として、農場は家畜を畜舎やケージの中に密集させ、太らせるために人工的な飼料を供与する」点に原因があるのです。つまり人工的飼料です。「ほとんどの人工的飼料は、穀物をベースにし、これにビタミン、ミネラル、蛋白サプリメント、医薬品を添加している。飼料は少数の企業によって生産され、広く販売される。」狂牛病蔓延の原因になったのは、この蛋白質サプリメントだといわれます。

7)「ほとんどの国では高蛋白の濃縮物は、RENDERING PLANTS(動物の脂肪を煮すます精製工場)から手に入れる。この工場では、骨、羽毛、頭部、足、腸といったような家畜の非可食部分を加工する。どちらかというと秘密の工場である。これらの材料は二つの製品、すなわち、@脂肪または獣脂(石鹸、口紅、野の他化粧品に使う)と、A蛋白質の多い物質(以前はボーン・ミールとして知られ、菜園用の肥料として使われた)に加工される。
1960年代後半と1970年代初頭に、Aの蛋白材料(現在では濃縮物として知られる)が秘密裏に家畜飼料に添加されはじめられた。」スクレイピーにかかった羊の脳がレンダリング・プラントで加工され、それが牛の飼料に添加されたことが、狂牛病発症の原因でした。1989年までにーすでに7000頭の牛が狂牛病発症していたーイギリス政府は、それが原因であると結論づけました。

8)「1988年に英国政府は牛、羊、ヤギ、の飼料にクズ肉を添加することを禁止した(しかし豚と鶏には禁止しなかった)。そして、1989年添加物禁止は牛の脳、脊髄、腸をミート・パイ、ハンバーガー、ソーセージに使うことに対しても拡張された。」

9)1990年代中葉のイギリスでの狂牛病の発症とヨーロッパでのパニックは、世界で始まる流行の開始だとささやかれてきました。なぜなら、肉の大量生産・大量消費に対応するための、世界の集約的畜産には、飼料は輸入に頼ったり、草食動物(牛)に牛の肉食をさせるという自然生体を無視した、傲慢なやり方のつけが廻ってきたのでしょう。資本制的商品生産としての畜産業は、草食動物としての牛と大地との自然生態循環を破壊した結果、牛達を狂牛病に落とし込め、その結果、人間内部の生体循環の破壊・クロイツフェルトヤコブ病を発症させているのではないでしょうか。

10)アメリカの狂牛病について「ダウン・カウズーアメリカ固有の牛海綿状脳症が既に大発生している!?」ーアース・アイランド・ジャーナル96年夏号ーよりの抜粋と+私の意見です。
1985年、ウイルコンシン州で牛ばかりの飼料を与えられていたミンクが、海綿状脳症で全滅しました。ウイルコンシン大学の獣医学者リチャード・マーシュは、発症したミンクの脳を牛に与えたところ牛は死んだので、彼はアメリカでは固有の牛海綿状脳症がすでに存在するとして、「ダウンド・カウズ」病と命名しました。アメリカでは毎年原因不明のまま30万頭の牛が「ダウンド・カウズ」で死んでいっていると
のことです。

11)「アニマル・ヘルス・インスティチュートの報告によれば、レンダリング・プラント(畜産処理加工処理工場)に出される牛の残骸のうち、アメリカでは少なくとも14%が飼料となって他の牛が食べるという。この他豚やニワトリに、50%が回される。このような状況があるので、農務省はイギリスよりもアメリカのほうが牛海綿状脳症が広まってしまう可能性がある。」ことを認めています。1989年以降飼料に混ぜる動物性蛋白質が劇的に増えているとのことです。

12)「サード・ワールド・ネットワーク・フィ−チャーズ」は、「狂牛病・ウシ成長ホルモン・動物性脂肪精製飼料」の中で、遺伝子組替えと狂牛病との関係をのべています。牛乳を数倍多く搾乳するために、遺伝子組替えウシ成長ホルモンを与えられたウシは、エネルギーを著しく消耗するので、高エネルギーの飼料を、「動物性脂肪精製飼料」の形で草食動物に肉・骨粉を食べさせます。

13)ウシ成長ホルモンを「投与された牛は、妊娠と乳汁分泌サイクルを人工的に管理せれるために、体力の消耗が著しい。更に20年から25年の平均寿命を5年以下にちじめてしまう。」 1930年には乳牛の一日平均乳量は5KGだったが、ウシ成長ホルモンを投与するようになってからは、22KGに増えています。消耗する牛は病気にかかりやすいので、構成物質が飼料に投与されます。そうすると、抗生物質の在留物がまぎれこんだ牛乳ができるのみならず、牛の妊娠率は低下し、小牛の出生率も低下してしまいます。生命体を営利主義的・工業的手法で操作した結果なのです。

14)イギリスの微生物学者スティーブン・ディラーによると、牛より15年遅れで人間の間で、クロイツフェルト・ヤコブ病が流行するだろうといわれています。彼は1990年だけでも牛海綿状脳症に発症の牛25万頭が食肉として消費された状況なので、最悪の場合、2010年までに約1000万人が感染するだろうと警告しています。(現代農業1996年増刊号より)

●原因と解決方法


15)羊の風土病的疾患であったスクレイピーは、18世紀、資本主義の勃興期に、利潤のために生産性を求めた羊系統造成=人工改良の過程で、羊群間に拡大し、資本主義の発祥地英国から世界へと伝播しました。羊のスクレイピーが種の壁に守られているはずの牛に感染した理由はスクレイピーに感染した羊の脳、骨髄、内臓、神経などの加工した動物
性蛋白飼料を、草食動物である牛に食べさせるという異常行為の結果、自然界の捕食関係において超えられない種の壁を人間自身が破ったところに、その原因を求めることが出来るでしょう。微生物の遺伝子は、種の壁を超えて動物、植物間を水平移動しますが、蛋白質であるプリオンが種の壁を超えたとすれば、自然界の生命循環を人工的な人為的な方法によって生命に異常事態を起こしてしまった結果にほかならないと考え得るのではないでしょうか。
余談ですが、1930年代、世界的化学企業デュポン社によって開発され当時“夢の物質”と絶賛された人工化学物質フロンが、40年後1970年代になって、オゾン層破壊の”悪夢の物質”と世界を驚愕させたことを思い起こすことは、近代科学の知の意義と限界、資本主義と結びつついた時の破壊的、致命的結果を直視することを私達に要求します。”夢の人工物質・プルトニューム”、”夢の化学物質・DDT”、”夢の物質・プラスティック”・・・・・・・・・。

16)では、なぜ人間は、草食動物・牛に牛を共食いさせるのでしょうか?
牛乳の生産性を上げ、牛を太らせて、より多くの利潤を上げるためです。農場で牛を畜舎に密集させて、工業的、化学的牛乳・牛生産工場システムを必然化させました。資本市場で牛商品、牛乳商品の価値。実現=販売は、コスト競争を必然化させ、それに打ち勝つための生産性向上を要求します。そこでは、牛は生命体ではなく肉の塊であり、牛乳製造機にすぎません。毎日毎日牛乳を搾り取る、これだけでも牛の生理に反しているのに、人間好みの高乳脂率の高い牛乳を搾乳するためにまた牛の体格を大きくする(肉を沢山取るため)濃厚飼料とレンダリング工場(動物脂肪を煮済ます精製工場)で作られた蛋白質が投与される。不自然な環境から来る病気対策として抗生物質が常時投与される。抗生
物質耐性菌の反逆は必至でしょう。資本制的畜産業は、工場的・化学的非自然的畜産業を必然化させたのです。日本の畜産の大部分は輸入飼料に依存しています。市場経済を前提とする限り、自家飼料は輸入飼料より高くつき市場競争に対応できません。一般の輸入飼料に狂牛病の牛の骨粉や内臓が含まれていない保証はないでしょう。畜産飼料の世界市場化は、狂牛病の世界化を促しているのです。狂牛病は、人間の資本制的・化学工場的畜産の価値観とそのシステムが生み出した病気だ、と言っても過言ではないでしょう。

17)では解決方法は?どうすればよいのでしょうか?
狂牛病の原因が、人間の資本制的・化学工場的畜産の価値観と、そのシステムが生み出した病気だとしたら、その原因を止揚すればいいということになります。
まず、巨大資本と国家がバックアップする、資本制的市場経済全面依存型の畜産システムに対抗する価値観とシステム形成です。有機畜産=自然生体循環を生かした畜産に価値をおくこと、自然ー土地ー動物ー人間の物質循環の流れが、人間に内部の物質循環を規定するという認識が重要です。
そうすれば、そのような自然循環に出来るだけ沿った畜産技術と生産システム、流通システムの形成が問われます。
有機的な家畜飼養の基本は、土地、植物、家畜の出来るだけ調和の取れた循環を発展させること、そして家畜の生理的、行動学的要求を尊重することです。それは有機栽培された良質な飼料、適切な飼養密度、行動学的要求に応じた動物の飼養体系、ストレスを最小限に押さえ動物の健康、疾病に対する化学的動物用医薬品ー抗生物質や牛成長ホルモンー、レンダリング人工的飼料の避ける管理方法を組み合わせることによって達成されます。

18)しかし、そうした有機的生産方法・管理方法が達成されたとしても問題は解決したことになりません。流通形態の問題です。一般的市場での流通に依存する限り、今日、有機的飼養の方法は極めて困難です。なぜならコストと手間がかかるため市場競争に敗北するからです。一般市場とは別の流通形態が不可欠です。産消提携といわれる生産者と消費者の提携ー共通の価値・意識と顔の見える関係、契約的生産と消費、相互信頼の関係の形成が必要となります。有機農業運動がこの30年間築き上げてきた道です。
LETSシステムと産消提携運動とを結合させることによって、産消提携運動が抱えている壁を突破することが出来るかもしれません。
社会的運動、非資本制的アソシエーションムーブメントとしての有機畜産運動です。このような価値観とシステムの形成によって、市場競争原理・利潤絶対主義から必然化される効率主義、生産性向上への脅迫観念、動物生理の無視(抗生物質投与、動物性蛋白投与、成長ホルモン投与)、輸入飼養依存がら脱出することができるでしょう。
*非資本制的アソシエーション(協同/連合)・運動としての有機畜産
*LETSシステムと結合した畜産の産消提携運動
これが提起する解決の方法です。

●米沢郷牧場


19)*非資本性的アソシエーション(協同/連合)運動としての有機畜産 *LETSシステムと結合した畜産の産消提携運動、これが提起する解決方法です。と書きましたが、そんなこといっても、遠い将来の話で、すぐには無理なんじゃないの?という声が聞こえてきそうです。ところが、これから社会に広がろうとするLETSを除けば、日本有機農業研究会系等の畜産農家や事業体では、既に行われていることなのです。

20)日本有機農業研究会にも参加している米沢郷牧場グループについて見てみましょう。
3種類の組織からなっています。1番目は、農事組合法人・米沢郷牧場で、生産部門は「まほろばライムファーム」(87万羽の養鶏場)、「七ケ宿中央リムジン牧場」(肉牛450頭)、その他2つの肉牛飼育場。鶏、3つの牛の飼料自給工場、家畜糞尿ベースの堆肥工場、5つのBMW(微生物、ミネラル、水)生物活性水プラントを持っていて、。販売組織として「まほろば出荷組合」「共同購入会」があります。2番目には、米沢郷牧場関係組合出資で創設された「米沢物産」「サンマルモーターズ」3番目には、組合員が自主的に設立した組織があリ、肉牛飼育、稲作、果樹、農産加工7生産部門ががあります。

21)養鶏場「まほろばライブファーム」の経営方法を紹介します。普通一般の大規模養鶏場は、薄暗い窓がなく、超過密状態で、運動させず太らせ、病気予防のために、抗生物質を常時投与し、一斉消毒する残酷な「養鶏工場」なのです。資本制化学工場型養鶏です。鶏は生き物として扱われてません。
それに対して「まほろばライフファーム」では、平飼で自由に運動できる、谷間の涼しいところに養鶏場を散在させ、生物活性水で作った餌をあたえ、抗生物質や消毒をする必要がない状況を作っています。鶏は生き物として扱われています。

22)「中央リムジン牧場」では、70頭の母牛が飼われていて、鼻縄をつけない、牧草中心の放牧で牛たちは自由に動き回れます。「世界が飢餓に直面している時、食の資源を多消費しながら牛を育てることは、先進国のおごり以外の何物でもない。」との考えから未使用資源活用型牧畜経営をしているといわれています。飲み水には生物活性水が使われていて、敷き藁はグループの稲作からまかなわれ、抗生物質の常時投与やホルモン剤の投与は行なわれていません。ここでも牛は、生き物として扱われています。土地ー植物ー動物ー微生物ー土地という物質循環の中で畜産業が営まれているのです。
経営体は、農事組合や有限会社形態を取っていて、ピラミッド型でなく、協同/連合のシステムを作り上げてきています。(「農のシステム・農の文化」安達生恒著に依拠)

*狂牛病発症の諸原因と対抗するところから、こうした有機畜産運動は登場し成長してきたのです。

23)なお、このような数十億円の取引額を持つ、非資本制的有機畜産事業体が、LETS/winds-qに参加するなら、アソシエーションとしての質を高めるチャンスになるでしょう。産消提携・産直運動が量的限界に突き当たっている現在、増大する有機農業・畜産生産グループが、販路確保のためスーパーへの比重を高めざるを得ない状況の中で、LETSが多くの人達を魅了し、ダイナミックなシステムとして登場する時、米沢郷牧場のようなグループに取ってもwinds-qは、魅力的なものになるように思えるのです。


 


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