田中正治
再生可能エネルギー
「エネルギー大潮流」
クリストファ・フレイヒン/ニコラス・レイセン著
■抜粋と書評 鴨川自然王国 HPより 転載
■text:田中正治
■date:2004.3.11
この本は、ワールドウオッチ研究所のエネルギーに関するビジョンです。オルタナティブなエネルギー政策では世界の主流です。まず刺激的な部分のみ抜粋し、その後書評します。
1)
「世界は単位生産額当りの炭素出量を現状のおよそ10分の1にする必要がある。それは化石燃料に基づくエネルギー経済の実質的な終焉を意味している(P11)
2)
「21世紀半ばにエネルギー媒体の主流となるのは、恐らく水素である」(P12)「水素はより効率的で、分散的で、優雅なエネルギーシステムの発展に貢献するだろう。」「ビルの屋上には太陽集光器が設置され、・・工場の屋根にも太陽集光器を取りつけ、機械を運転するエネルギーを得ることができる。・・消費者は自宅で電力を蓄え必要な時に利用することが可能になる(12-13)
3)
燃料電池は従来の発電機に比べて,3つの主な利点を持っている。まず、比較的効率が高く、35―65%の効率でメタンや水素などの燃料が持つ潜在的エネルギーを電気に変換する。次に燃料がなく、効率も高いので、従来の発電方式よりも汚染物質の排出が少ない。最後に実質的に騒音はゼロである。燃料電池は大規模発電所の規模にもなるし、スペースシャトルや自動車のボンネットのうちに入るほど小さくすることもできる。」(91)
4)
「伝統的な地方分権と、地域社会が所有する農業協同組合の伝統を持つデンマーク国民は、エネルギー政策はより自立的で参加型のアプローチを取るべきだと主張した。広範な公開検討の後、・・風力とバイオマスという2つの国内資源にと自らの技術的独創性にゆだねることに決定したのである。」(107)
「1980年代初冬から風力発電協同組合が続々と結成され、人々はグループで風力電機を購入しそれを設置すると土地――その大奥は組員所有のもの――をリースできるようになったのである。・・・デンマーク政府は協同組合に対し風力の建設費の30%を補助したり、発電力を公正な価格で購入するよう電力会社に要請したりと、重要な役割をはたした。」(108)
5)
「技術開発の発展につれて、風力発電のコストも急速に低かした。1980年代初冬には風力発電の典型的な設備コストはキロワット当り3000$、発電コストは、キロワット時当り20セント以上であった。・・90年代初頭に、・・平均発電コストは、キロワット時当り7セントとなり、これは天然ガスや新石炭火力発電所の発電コストであるキロワット時当り4〜6セントを競合しうるものといえる」(112)
6)
「長期間的には、遠隔地に設置された大規模なウエンドーファーム電力は、ピーク時以外は水素発電の製造するのに用いることが出来、これを水素用パイプラインと貯蔵システムに供給することになろう。」(124)
7)
今稼動中又は開発中の多数の新技術は、太陽エネルギーを濃縮して高音の熱、機械的動力、電力として供給できる。多くの科学者が、この豊富な(太陽)エネルギーが来世紀(21世紀)の世界経済を動かす主力エネルギー源になると確信している。それを実現させるためには、地上に到達した“グレードの低い”エネルギーを経済的に実用可能な形に変換する方法と貯蔵する手段とが必要である」(129)
8)
「われわれのシナリオでは、風力発電、太陽光発電、太陽熱エネルギーのそれぞれが、2025年に、今日の原子力発電に相当する割合で1次エネルギーを供給する。」「2025年以降、引き続き化石燃料から脱却を図るには、2025年から2050年の間に、再生可能エネルギーの利用を75%増可させる必要がある。その時点で、再生可能エネルギーは全体として世界第二のエネルギーとして石油を代替し、世界の1次エネルギーの50%以上を供給し、2100年には、90%まで増加する。」(287)
9)
水素生還の新の問題点は、水を分解するのに使う安い電力の調達である。初期の水素推進論者のほとんどは宇宙産業と原子力生産業の人々で、彼らは水素を集中的型エネルギー源とする構想を描いていた。全世界のエネルギーを賄う水素を生産する、大規模な海上原子力島や、軌道衛星で太陽エネルギーを濃縮して、地上の巨大な水素生産基地に供給するといった構想も提案された。これはいずれも現実にはほど遠く、経済的でないし、しかも水素生産設備は小規模でも大規模と同じように経済的であるという重要な利点を無視している。水素は生産と使用の両面で、分散システムにおいてこそ無駄が最少になる。」(291)
10)
われわれのシナリオでは、水素生産に必要なエネルギー源の最適候補は、ガス化バイオマスによって補完される風力と太陽エネルギーである。大型の風力発電基地や太陽エネルギー発電基地は、電力需要が高い時には、電力を系統電力に供給し、需要が高くないときには水素生産に利用することができる。家屋やビルでも屋根置き型の太陽電池を使用して水素を生産できる。生産された水素は、地下タンクに貯蔵するか、パイプを通って地元の配送システムに送られる。」(292)
11)
「水素のきわめて効率的な使用法の1つに燃料電池がある。燃料電池は、燃料から65%という高率で直接発電する。実際、燃料電池は将来、水素エネルギー経済の“シリコンチップ”になるだろう。多くの家庭は、電気から水素を、逆に水素から電気を可逆的に生産する燃料電池を所有することになるだろう。」(292)
● 書評
1)
ワールドウオッチ研究所は「地球白書」の年次刊行を見ても分かるように、地球環境問題全般をカヴァーしていて、ぜんたいのバランスの中でエネルギー問題を取り扱っていて、世界のNGOからの広範な投稿のせいもあって、時代の先端問題を網羅しているてんで学ぶべきことは多い。
2)
研究所は持続可能な発展を掲げてるが、資本制的に持続可能な発展であって、資本制そのものに手をつけようとしていない。資本制とそれが発展させた工業システムこそが、今日の地球環境問題の最大の要因であるにもかかわらず。
3)
従って様々な、オルタナティブ・エネルギーを提案するが、非資本制的なアソシエーションムーヴメントとしてのオルタナティブ・エネルギーシステムを提案できないでいる。非資本制的アソシエーションムーヴメントとしてのオルタナティブ・エネルギーシステムの構築こそ、NAMとしての課題なのではないだろうか。
4)
原子力発電、火力発電、巨大水力発電など中央集権的エネルギーシステムに対して、風力発電、太陽光発電、バイオマスエネルギーを媒介とした水素エネルギー・燃料電池など分散型再生可能なシステムを構想しているが、そのことは同時に、今日のメインシステムとして工業システムの衰退とサブシステムとしての新しい質の工業への転換を不可避にするはずである。
5)
「原子力発電、火力発電、巨大水素発電など中央集権的エネルギーシステム」をベースに「メインシステムとしての工業システム」が成立している。鉄鋼、機械、化学、自動車、電気電子機器、航空宇宙にせよ、化石燃料と原子力エネルギーを利用した中央で制御された集中的エネルギーに依存している。自動車をラインで大量・オートマティックに製造するのに太陽エネルギー依存では不可能であるはずである。両者のエネルギー源は、資源埋蔵的要因や特に環境的要因(危険性を含む)になって使用が著しく制限されざるを得ないだろう。
6)
地方「風力発電・太陽光発電・バイオマスエネルギーを媒介とした水素エネルギー・燃料電池など分散型再生可能なシステム」は、風力、太陽光、バイオマは自然条件に制約されている。
風は吹かない時は吹かないし、太陽はいつも照っていてくれるとは限らない。バイオマスは森林や植物に依存するから大量伐採は困難だ。つまり、集中型エネルギーではないわけだから、集中的エネルギー依存型の上記のメインシステムとしての工業システムは、そのエネルギー基盤を失う事によって衰退し、分散型再生可能エネルギーに依存した工業・新しい質の工業が、社会の要請によって登場するはずである。
7)
例えば、鉄鋼は会社にとっては必要だ。しかし現在のような石油依存の巨大なオートメション・コンビナートシステムではなく、分散型再生可能エネルギーをベースにするなら、それにともなる製造技術の転換・開発が不可避だろう、又鉄鋼製造の規模が不可避的に制約されるだろう。大量生産から少量生産への転換である。
つまり埋蔵資源大量中央集中型から分散型再生可能型エネルギーへの転換は、大量生産、大量消費、大量廃棄経済のエネルギー基盤を奪うが、しかし、そのことは、資本制生産の廃絶を意味しない。その廃絶は別の物語である。
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